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大阪地方裁判所 平成7年(ワ)3436号 判決

奈良市登美ケ丘五の一の一三

原告

黒田重治

大阪市北区西天満二丁目四番四号

被告

積水樹脂株式会社

右代表者代表取締役

増田保男

右訴訟代理人弁護士

寺内則雄

右同

俵正市

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求の趣旨

一  被告は、原告に対し、一〇〇〇万円及びこれに対する平成七年四月一五日から支払済みに至るまで年五パーセントの割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  仮執行宣言

第二  事案の概要

一  事実関係

1  原告の実用新案権(争いがない。)

(一) 原告は、左記の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)を有していた(昭和六三年一一月八日の経過により存続期間満了。)。

登録番号 第一三七一八二五号

考案の名称 パイプ材

出願日 昭和四八年一一月八日(実願昭四八-一二九四三七)

出願公告日 昭和五五年三月一四日(実公昭五五-一一九四四)

登録日 昭和五六年三月三一日

実用新案登録請求の範囲

「中空状パイプの端口に合致する外形で適長の柱状固定脚と中空状パイプの外形に等しい外形で適長の柱状頭部とを有する変形防止材をゴム又は合成樹脂等で形成し、中空状パイプの両端口内に固定脚を挿入固定すると共に中空状パイプの両端を頭部により延長して成るパイプ。」(別添実用新案公報参照)

(二) 本件考案の構造上の特徴は、左記のとおりである。

(1) 中空状パイプの両端をゴム又は合成樹脂の変形防止材で保護したパイプ材で

(2) 変形防止材は、中空状パイプの端口(内形)に合致する外形で適長の柱状固定脚と中空状パイプの外形に等しい外形で適長の柱状頭部を形成しており、

(3) 中空状パイプの両端口に前記柱状固定脚を挿入固定すると共に同パイプ両端を前記柱状頭部により延長したことを特徴とするパイプ材。

(三) 本件考案の作用効果上の特徴は、左記のとおり、ゴム又は合成樹脂製の変形防止材がパイプ端部の開口部を外側と内側とで保護し、変形を防止することにある。

(1) 変形防止材の頭部は、パイプ端部の外形に等しい外形で適長の柱状としたことにより、パイプ端部を延長した状態になる。この延長したパイプ材の端部すなわち頭部に衝撃や外圧が加えられても、ゴム又は合成樹脂製の頭部が衝撃や外圧を吸収するから、パイプ端部の開口部に直接衝撃や外圧が加えられることがなく、パイプ端部の開口部が保護されてその変形が防止される。

(2) 変形防止材の固定脚は、パイプ端口(内形)に合致する外形で適長の柱状にしたので、パイプ端口内に挿入固定した場合、パイプの内側から端部を支持することになるから、衝撃や外圧に対して、内側から変形を防止することができる。

2  被告の行為

被告は、いずれも別紙(被告製品図)記載の構造を有する農業用ないし園芸用の支柱(以下「被告製品」という。)を、「セキスイイボ竹」「セキスイ竹」(甲第三号証の3)、「セキスイトンネル支柱」(甲第三号証の2)、「セキスイガーデンポール」(甲第三号証の1)の商品名で製造販売している(構成各部の呼び方を除き、争いがない。)。

被告製品の販売開始時期につき、原告は、「セキスイイボ竹」「セキスイ竹」は昭和五〇年一月頃、「セキスイトンネル支柱」「セキスイガーデンポール」は昭和五五年頃と主張する。

被告は、「セキスイイボ竹」(正確には「セキスイアドポール」)は昭和四四年夏(乙第二、第三号証)、「セキスイ竹」は昭和四六年四月一〇日(乙第四号証)、「セキスイトンネル支柱」は昭和四八年秋(乙第五号証)、「セキスイガーデンポール」は平成六年一二月六日(乙第六号証)と主張する。

3  被告の特許権(乙第一号証及び弁論の全趣旨)

被告は、本件考案の実用新案登録出願の日前の特許出願(いわゆる先願)にかかる左記の特許権(以下「被告特許権」といい、その特許発明を「被告特許発明」という。)を有していた。

特許番号 第七六六七六四号

出願日 昭和四三年九月一七日(特願昭四三-六七四五五)

出願公告日 昭和四九年八月八日(特公昭四九-二九八五四)

特許請求の範囲

「金属管の断面外形とほぼ等しい断面形状となされた鍔部を有する熱可塑性樹脂製栓体が金属管の両端に嵌挿され、金属管の外壁および鍔部の外周壁が栓体と相溶性のある熱可塑性樹脂にて被覆一体化されてなる合成樹脂被覆金属管。」(別添特許公報参照)

4  原告の請求

原告は、被告製品は本件考案の技術的範囲に属するからその製造販売は本件実用新案権を侵害するものであり、被告はその製造販売開始の昭和五〇年一月から本件実用新案権の存続期間が満了した年の昭和六三年一〇月までの間に被告製品を一〇〇億円分製造販売し、二〇億円の利益を得たから、原告はこれと同額の損害を被ったものと推定されると主張して、損害賠償として、内金一〇〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成七年四月一五日から支払済みに至るまで民法所定年五パーセントの割合による遅延損害金の支払いを求めるものである(なお、原告の請求が本件考案にかかるいわゆる仮保護の権利の侵害に基づく損害賠償請求を含むものであると解しても、出願公告日の昭和五五年三月一四日より前の期間については、理由がないことは明らかである。)。

被告は、被告製品は被告特許発明の実施品であり、本件考案の技術的範囲に属しない、と主張する。

二  争点

1  被告製品の製造販売は、本件実用新案権を侵害するものであるか。

2  原告の主張する損害賠償請求権は、時効消滅しているか。

第三  争点に関する当事者双方の主張

一  争点1(被告製品の製造販売は、本件実用新案権を侵害するものであるか)について

【原告の主張】

被告製品は、本件考案の技術的範囲に属し、被告主張の被告特許発明の実施品ではないから、その製造販売は本件実用新案権を侵害するものである。

1 被告製品は、以下のとおり、本件考案の技術的範囲に属するものである。

(一) 被告製品の構造上の特徴は、次のとおりである。

(1) 鋼管(パイプ)の両端を合成樹脂製キャップ(変形防止材)で保護したパイプ材で

(2) 合成樹脂製キャップは、パイプの端口(内形)に合致する外形で、適長の柱状固定脚とパイプの外形に等しい外形で適長の柱状頭部を形成したもので、

(3) パイプの両端口に前記の柱状固定脚を挿入固定すると共に、両端を柱状頭部により延長してなるパイプ材の

(4) その外周面に特殊樹脂をコーティング(被覆)した支柱。

また、被告製品の作用効果上の特徴は、次のとおり、柱状頭部と柱状固定脚を形成した合成樹脂製キャップがパイプ端部の開口部を外側と内側とで保護し、変形を防止することにある。

(1) 合成樹脂製キャップの頭部は、パイプの外形と等しい外形で適長の柱状体になっているので、パイプの端部が延長された状態になることにより、パイプ端部に直接衝撃、外圧が加えられることがなく、パイプ端部の開口部が保護されている。

(2) キャップの固定脚は、パイプ端口(内形)と合致する外形で適長の柱状体としたので、固定脚を端口内に挿入固定したことによって、パイプ内側から開口部を支持することになり、衝撃や外圧が加えられた場合でも、変形を阻止することができる。

(二) 被告製品は、その構成(構造)において、(4)「その外周面に特殊樹脂をコーティング(被覆)した支柱」を除き、本件考案と同一であり、作用効果上も本件考案と同じである。

被告製品は、右のように構成(4)「その外周面に特殊樹脂をコーティング(被覆)した支柱」の点で本件考案と差異があるが、これは、本件考案の付加的要素にすぎないから、被告製品は本件考案の技術的範囲に属する。

2 被告製品は、以下のとおり、被告特許発明の実施品とはいえない。

(一) 被告特許発明にいう「鍔部を有する熱可塑性樹脂製栓体」は、金属管内部の錆の発生を防止するためのものであるから、その鍔の厚み(長さ)は、文字どおり「刀剣の鍔」のように薄いものである(別添特許公報)。したがって、この「鍔部を有する熱可塑性樹脂製栓体」では支柱先端の変形は防止できない。

これに対し、被告製品の合成樹脂製キャップの一方の先端(頭部)は、他方の先端を叩きながら支柱を打ち込む際に支柱の開口部の変形を防止するため、円錐状ないし斜め切断状に形成されており、したがって、合成樹脂製キャップの先端(頭部)は、本件考案にいう「適長の柱状頭部」に該当するが、「刀剣の鍔」のように薄いものではないから、被告製品は被告特許発明の実施品とはいえない。

(二) なお、被告が昭和四四年夏以降製造販売したと主張する乙第二ないし第四号証の製品は、支柱先端に被告主張の「水密キャップ」を使用した製品すなわち被告製品ではない。被告は、昭和五〇年二月以降発行のカタログ(乙第五ないし第九号証)において初めて、「水密キャップ」を使用した点を「特長」として記載しているのである。

【被告の主張】

被告製品は、昭和四四年夏以降、被告が本件考案とは関係なくその先願にかかる被告特許発明の実施品として製造販売してきたものであり、本件考案の技術的範囲に属しないから、本件実用新案権を侵害するものではない。

1(一) 被告製品の構造上の特徴は、

〈1〉 鋼管の両端に熱可塑性樹脂製栓体が嵌挿され、

〈2〉 熱可塑性樹脂製栓体は鍔部と嵌挿部とからなり、鍔部はその断面形状が鋼管の断面外形とほぼ等しく、嵌挿部はその断面形状が鋼管の断面内形と等しくなされ、

〈3〉 鋼管及び熱可塑性樹脂製栓体の鍔部の外周壁が栓体と相溶性のある熱可塑性樹脂で被覆一体化されている

ことにある。

(二) 被告製品は、右構造上の特徴〈3〉の「鋼管及び熱可塑性樹脂製栓体の鍔部の外周壁が栓体と相溶性のある熱可塑性樹脂で被覆一体化されている」ことにより、単に中空状パイプの端口に変形防止材を取り付けただけで外壁に樹脂被覆を有しない本件考案と構成上決定的に異なるものである。作用効果においても、被告製品は、右構造上の特徴〈3〉の構成により、外壁面及び内壁の発錆を完全に防止することができるのに対し、本件考案では、中空状パイプとして金属管を使用した場合、その外壁が被膜で被覆されていないので、外壁面の発錆を防止できないのはもとより、変形防止材として使用されるゴムや合成樹脂と金属とでは熱膨張係数が大きく異なるため、温度変化によって鋼管と変形防止材との間に隙間が生じ、水密性が維持できなくなり内壁の発錆を防止することができないという点で、異なるものである。

したがって、被告製品の構造上の特徴〈3〉の構成は原告主張のような付加的要素ではなく、これがあることにより被告製品は本件考案の技術的範囲に属しないものである。

2 そもそも被告製品(すなわち鋼管の両端に熱可塑性樹脂製栓体「水密キヤップ」を嵌挿したもの)は、本件考案の出願公開日(昭和五〇年六月三〇日)より前の昭和四四年夏から、被告が本件考案とは関係なくその先願にかかる被告特許発明の実施品として製造販売してきたものであるところ(乙第二ないし第四号証)、本件実用新案権と被告特許権とは、各々別個に成立した権利であるから、被告製品が本件実用新案権に抵触するものでないことは明らかである。

二  争点2(原告の主張する損害賠償請求権は、時効消滅しているか)について

【被告の主張】

本件実用新案権は、昭和六三年一一月八日の経過により存続期間が満了して消滅したものであるが、原告は、「街の発明家」としてつとに知られた人物であり、自己保有の工業所有権等の権利の保全に余念がないものと考えられるから、被告製品の存在を、遅くとも平成三年一一月八日までには知っていたはずである。したがって、原告の主張する損害賠償請求権は、平成六年一一月八日の経過をもって時効により消滅している。

【原告の主張】

原告が被告製品の存在を初めて知ったのは、平成六年一二月二六日である。

第四  争点1(被告製品の製造販売は、本件実用新案権を侵害するものであるか)についての判断

一  まず、被告製品が本件考案の構成要件を充足するか否かについて、判断する。

1  本件考案は、角バタ材その他の用途に用いるパイプ材に関するものであり、その構成要件は、甲第一号証(実用新案公報)及び前記争いのない第二の一1(二)の記載に照らせば、

(1) 中空状パイプとゴム又は合成樹脂等で形成した変形防止材とから成るパイプであること、

(2) 変形防止材は、中空状パイプの端口に合致する外形で適長の柱状固定脚と中空状パイプの外形に等しい外形で適長の柱状頭部とを有するものであること、

(3) 中空状パイプの両端口内に右変形防止材の柱状固定脚を挿入固定するとともに、中空状パイプの両端を柱状頭部により延長したものであること、と分説するのが相当である。

2  これに対し、被告製品の構成を、甲第三号証の2(セキスイトンネル支柱のパンフレット)、同号証の3(セキスイイボ竹、セキスイ竹のパンフレット)及び弁論の全趣旨により、本件考案の右構成要件に対応させて分説すると、

(1) 中空状パイプ(鋼管)と合成樹脂で形成した水密キャップ(被告主張の表現によれば熱可塑性樹脂製栓体)とから成る支柱であること、

(2) 水密キャップは、中空状パイプ(鋼管)の端口に合致する外形で適長の柱状固定脚(被告主張の表現によれば嵌挿部)と中空状パイプの外形に等しい外形で適長の柱状頭部(被告主張の表現によれば鍔部)とを有するものであること、

(3) 中空状パイプ(鋼管)の両端口内に右水密キャップの柱状固定脚を挿入固定するとともに、中空状パイプ(鋼管)の両端を柱状頭部により延長したものであること、

(4) 中空状パイプ(鋼管)及び水密キャップの柱状頭部の外周壁が水密キャップと相溶性のある熱可塑性樹脂で被覆一体化されていること

ということになるものと認められる(なお、被告製品中、甲第三号証の1の「セキスイガーデンポール」については、被告が本件実用新案権の存続期間中にこれを製造販売したと認めるに足りる証拠はない。)。

3  被告製品の構成を本件考案の構成要件と対比すると、被告製品の水密キャップ(被告主張の表現によれば熱可塑性樹脂製栓体)が本件考案にいう変形防止材に該当するか否かという点を除き、被告製品の構成(1)ないし(3)がそれぞれ本件考案の構成要件(1)ないし(3)を充足するものであることは明らかであるので、右の点につき検討する。

被告製品は、農業用ないし園芸用の支柱であって、その一方又は両方の先端を土中に埋め込んで使用することが予定され、その埋め込む一方又は両方の水密キャップの柱状頭部(被告主張の表現によれば鍔部)の先端が円錐状に形成されており、被告製品のサイズは、「セキスイトンネル支柱」では、直径(外径)八ミリメートルから一三・七ミリメートルまで、長さ〇・九メートルから四・二メートルまで、「セキスイイボ竹」「セキスイ竹」では、直径(外径)八ミリメートルから三三ミリメートルまで、長さ〇・七五メートルから四メートルまでであることが認められる(甲第三号証の2・3)から、被告製品の使用方法として、中空状パイプ(鋼管)の部分を手で握り両方又は一方の先端を土中に突き入れる方法で埋め込むものであると推認することができる。したがって、被告製品の先端に取り付けられた水密キャップは、土中に突き入れる際の抵抗に耐えることができる程度の硬度を有しており、その限度で先端の変形防止の作用効果をも奏するものと認められる(被告も、その主張からみて[前記第三の一【被告の主張】1]、このことを実質的に争わないものと解される。)から、被告製品の水密キャップは本件考案にいう変形防止材に該当するというべきである。

被告は、被告製品は、鋼管(中空状パイプ)及び熱可塑性樹脂製栓体(水密キャップ)の鍔部(柱状頭部)の外周壁が栓体と相溶性のある熱可塑性樹脂で被覆一体化されていること(被告主張の前記構造上の特徴〈3〉、すなわち前記構成(4))により、単に中空状パイプの端口に変形防止材を取り付けただけで外壁に樹脂被覆を有しない本件考案と構成上決定的に異なるものであるし、作用効果においても、被告製品は、右構成により、外壁面及び内壁の発錆を完全に防止することができるのに対し、本件考案では、外壁面の発錆を防止できないのはもとより、変形防止材として使用されるゴムや合成樹脂と金属とでは熱膨張係数が大きく異なるため、温度変化によって鋼管と変形防止材との間に隙間が生じ、水密性が維持できなくなり内壁の発錆を防止することができないという点で、異なるものである旨主張する。確かに、被告製品において、中空状パイプ(鋼管)及び水密キャップ(熱可塑性樹脂製栓体)の柱状頭部(鍔部)の外周壁が水密キャップと相溶性のある熱可塑性樹脂で被覆一体化されているという構成が加わることにより、中空状パイプ及び水密キャップの柱状頭部の外壁面の発錆を防止でき、中空状パイプと水密キャップとの間の水密性がより完全なものになること(本件考案においても、変形防止材は中空状パイプ内への水の浸入を防止する作用効果をも奏するものである[実用新案公報3欄11行~4欄2行]。)が認められるが、それが故に水密キャップが有する前記のような変形防止材としての機能に変化が生じるとは到底考えられない。

したがって、被告製品は、本件考案の構成要件をすべて充足したうえで、熱可塑性樹脂による被覆一体化という構成(4)を付加したものであって、構成(4)は、本件考案との関係では単なる付加的要素であるということができる。

二  右のように、被告製品は本件考案の構成要件をすべて充足するところ、被告は、被告製品は昭和四四年夏以降、被告が本件考案とは関係なくその先願にかかる被告特許発明の実施品として製造販売してきたものであり、本件考案の技術的範囲に属しないから、本件実用新案権を侵害するものではないと主張するので、次に、被告製品が被告特許発明の実施品といえるか否かについて判断する。

1  被告特許発明は、乙第一号証(特許公報)によれば、標識板用支柱、街灯用支柱、海苔や魚介類の養殖用材、パイプ棚、パイプシャッター等の建材等として好適に使用される(3欄23行~26行)合成樹脂被覆金属管に関するものであり、その構成要件は、

(1) 金属管の断面外形とほぼ等しい断面形状となされた鍔部を有する熱可塑性樹脂製栓体が金属管の両端に嵌挿され、

(2) 金属管の外壁及び鍔部の外周壁が栓体と相溶性のある熱可塑性樹脂にて被覆一体化されてなる

(3) 合成樹脂被覆金属管。

と分説するのが相当である。

2  これに対し、被告製品の構成を、前掲甲第三号証の2・3により、被告特許発明の右構成要件に対応させて分説すると、

(1) 金属管(中空状パイプ)の断面外形とほぼ等しい断面形状となされた柱状頭部を有する熱可塑性樹脂製栓体(水密キャップ)が金属管の両端に嵌挿され、

(2) 金属管(中空状パイプ)の外壁及び柱状頭部の外周壁が栓体と相溶性のある熱可塑性樹脂にて被覆一体化されてなる

(3) 合成樹脂被覆金属管。

ということになるものと認められる。

そして、その水密キャップ(熱可塑性樹脂製栓体)の具体的な形状は、先端を土中に埋め込む側の水密キャップにおいては、金属管に嵌挿されている部分(柱状固定脚)が、金属管の太さと同程度あるいはそれ以上の長さを有する円柱状であり、金属管から延出している部分(柱状頭部)が、金属管の太さと同程度の長さを有する円柱状部分及び金属管の太さと同程度の高さを有する円錐状部分で構成されており、また、先端を土中に埋め込まない側の水密キャップにおいては、金属管に嵌挿されている部分(柱状固定脚)が、金属管の太さと同程度の長さを有する円柱状であり、金属管から延出している部分(柱状頭部)が、金属管の太さの三分の一程度の円柱状であることが認められる(甲第三号証の2・3)。

3  しかして、原告は、被告特許発明にいう「鍔部を有する熱可塑性樹脂製栓体」は金属管内部の錆の発生を防止するためのものであるから、その鍔の厚み(長さ)は、文字どおり「刀剣の鍔」のように薄いものであるのに対し、被告製品の合成樹脂製キャップの先端(頭部)は「刀剣の鍔」のように薄いものではないから、被告製品は被告特許発明の実施品とはいえない旨主張する(この点を除き、被告製品の構成(1)ないし(3)がそれぞれ被告特許発明の構成要件(1)ないし(3)を充足することは明らかである。)。

被告特許発明の明細書の特許請求の範囲には、熱可塑性樹脂製栓体の「鍔部」について、その具体的形状や厚み(長さ)を規定する記載はない。その発明の詳細な説明の欄には、「本発明者は・・・金属管の両端に熱可塑性樹脂製の栓体を嵌挿し、かつ、該金属管の外壁に栓体と相溶性のある熱可塑性樹脂を被覆し、栓体と被覆樹脂とを融着等により一体化して金属管を密封することにより、金属管内壁の発錆を抑え、金属管の耐用年数を著しく増大させることに成功した」(特許公報1欄35行~2欄5行)、「本発明合成樹脂被覆金属管は上述のごとく金属管の両端が栓体で完全に密封されているので端部からの水分の浸透が防止され、水分が原因となる金属管の内壁の発錆は完全に防止され」(同3欄20行~23行)との記載があり、被告特許発明の作用効果は、金属管内壁の発錆の防止にあるものと認められる(金属管の外周壁の発錆も防止できることはいうまでもない。)。

しかし、右のように被告特許発明の作用効果が金属管内壁の発錆の防止にあるからといって、原告主張のように熱可塑性樹脂製栓体の「鍔部」は「刀剣の鍔」のように薄いものであるとする根拠はなく、右作用効果を考えれば、「鍔部」の厚み(長さ)は大きい方が、栓体と相溶性のある熱可塑性樹脂による金属管の外壁及び鍔部の外周壁の被覆一体化が完全になるから、むしろ「鍔部」は相当程度の厚み(長さ)を有するものを予定しているということができるのみならず、被告特許発明の明細書の発明の詳細な説明の欄には、被告特許発明そのものの説明として、「栓体の頂部は第2図の如き平面の他、第3図の如き円錐形や第4図の如き半球形等になされていてもよい。」との記載があり(特許公報2欄29行~31行)、被告特許発明の実施例について説明する(同3欄2、3行)図面には、栓体の具体的形状として、その金属管に嵌挿されている部分はいずれも金属管の太さと同程度の厚み(長さ)を有する円柱状のものであり、鍔部は、先端面が平坦な円柱状で、その厚み(長さ)が金属管の太さと同程度のもの(第2図)、右のような円柱状の部分と更に厚み(高さ)が金属管の太さと同程度の円錐状の部分とが一体的に成形されたもの(第3図)、先端面が半球状に形成された円柱状で、その厚み(長さ)が金属管の太さと同程度あるいはそれ以上のもの(第4図)が示されている。

したがって、被告製品の熱可塑性樹脂製栓体(水密キャップ)の柱状頭部は被告特許発明にいう「鍔部」に該当することは明らかであり、被告製品は、被告特許発明の明細書に示された実施例そのものであり、被告特許発明の実施品であるということができる。これに反する前記原告の主張は採用することができない。

三  ところで、被告製品は、前記一のとおり本件考案の構成要件をすべて充足するが、右二のとおり本件考案の先願にかかる被告特許発明の実施品(明細書に示された実施例そのもの)でもあるところ、先願にかかる他人の特許権等との関係を定めた実用新案法一七条、二六条(特許法八一条)の趣旨に照らし、先願にかかる被告特許発明の特許権者であった被告は、後願たる本件実用新案権の禁止権によって制約されることなく、被告特許発明を実施することができたものと解するのが相当である。

したがって、被告製品の製造販売は、結局、本件実用新案権を侵害するものではないといわなければならない(なお、被告特許権の存続期間満了後については、被告は、実用新案法二六条、特許法八一条の類推適用により、本件実用新案権につき通常実施権を有したものと解するのが相当である。)。

第五  結論

以上によれば、原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由のないことが明らかである。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 水野武 裁判官 田中俊次 裁判官 小出啓子)

別紙(被告製品図)

〈省略〉

〈19〉日本国特許庁(JP) 〈11〉実用新案出願公告

〈12〉実用新案公報(Y2) 昭55-11944

〈51〉Int.Cl.3E 04 C 3/04 E 04 B 1/40 識別記号 庁内整理番号 7806-2E 6434-2E 〈24〉〈44〉公告 昭和55年(1980)3月14日

〈54〉パイプ材

審判 昭53-4818

〈21〉実願 昭48-129437

〈22〉出願 昭48(1973)11月8日

公開 昭50-74714

〈43〉昭50(1975)6月30日

〈72〉考案者 黒田重治

奈良市登美ケ丘5丁目1-13

〈71〉出願人 黒田重治

奈良市登美ケ丘5丁目1-13

〈56〉引用文献

実公 昭49-42352(JP、Y1)

〈57〉実用新案登録請求の範囲

中空状パイプの端口に合致する外形で適長の柱状固定脚と中空状パイプの外形に等しい外形で適長の柱状頭部とを有する変形防止材をゴム又は合成樹脂等で形成し、中空状パイプの両端口内に固定脚を挿入固定すると共に中空状パイプの両端を頭部により延長して成るパイプ。

考案の詳細な説明

本考案は、中空状パイプ1の端口に合致する外形で適長の柱状固定脚2と中空状パイプ1の外形に等しい外形で適長の柱状頭部3とを有する変形防止材4をゴム又は合成樹脂等で形成し、中空状パイプ1の両端口内に固定脚2を挿入固定すると共に中空状パイプ1の両端を頭部3により延長して成るパイプ材に係り、その目的とするところは端部の強度を大きくし長期に亙つて使用できる角バタ材その他の用途に用い得るパイプ材を提供するにある。

従来の金属角バタ材の中空状パイプ1の端部には使用時に土、泥水などが中空部内へ侵入するのを防止するため第4図のように薄肉形成せるキヤツプAを被着していた。しかし金属の中空状パイプ1の端部に衝撃、外圧等が加わると第5図のようにこの端部が変形し同時に薄肉のキヤツプAも脱落して使用不能となる欠点があつた。

本考案はかかる従来欠点に鑑みて考案されたもので、以下添附図により詳述する。変形防止材4はゴム、熱可塑性合成樹脂等で一体に形成されたもので、第2図、第3図aに示すように、中空状パイプ1の外形と等しい外形で適長の柱状頭部3より中空状パイプ1の端口と合致する外形で適長の柱状固定脚2が連出されている。ここで固定脚2は中空状パイプ1の太さに比して相当に長く形成されたもので例えば中空状パイプ1の太さと同等又はそれ以上の長さに形成しておくのが好ましく、また頭部3の突出延長寸法は中空状パイプ1の太さの略半分又はそれ以上に設定するのがよい。また固定脚2は第3図bのように厚肉筒状にしたり或いは第3図cのようにこの固定脚2の中空部に他の硬質充填材5を装填しておいてもよい。然して形成せる変形防止材4の固定脚2を中空状パイプ1の両端部内に圧入、ねじ止め、接着剤止め等で固定し端口を閉塞し頭部を先端部とし延長している。

本考案にあつては上述のようにゴム、合成樹脂等の変形防止材の頭部を中空状パイプの外形と等しい外形の柱状体とし、この頭部により中空状パイプの端部を延長しているのでパイプ材を垂直又は斜めの向きで端部から落としたときの変形防止材頭部の変形が中空頭部の場合に比して小さいものであり、中空状パイプの端口保護性能が大きい利点があり、しかも上記頭部は大きな厚さを持つので、落下時の衝撃が大きくとも頭部だけで充分衝撃吸収が可能であつて中空状パイプの端口への衝撃の伝逹がほとんどなく、中空状パイプの端口保護が充分に行なえる利点があり、また変形防止材の固定脚を中空状パイプの端口と合致する外形の柱状体とし、この固定脚を端口内に挿入固定しているので中空状パイプの変形しやすい端口部の全周を内側から固定脚で支持することとなり、そのために外圧や横又は斜め落下等にてたとえ中空状パイプの端口部に衝撃や外圧が加えられたとしても固定脚により変形を阻止することができて中空状パイプの端口部の変形防止が一層確実にできるものであつて、上記厚い頭部による保護と併せて2段の変形防止が行なえる利点があり、さらに変形防止材をゴム、合成樹脂等で形成しているから変形防止材が弾性を有し、そのため衝撃吸収性が良いばかりでなく変形後の復元性があり、長期の使用において中空状パイプの端口部の変形損傷防止性能を維持できる利点があり、中空状パイプ内への土、水などの侵入防止と合せて中空状パイプ自体の変形防止を計り長期使用の可能なパイプ材を提供したものである。

図面の簡単な説明

第1図は本考案の一実施例の斜視図、第2図は同上の一部切欠断面図、第3図aは同上の要部の拡大斜視図、第3図b、cは同上の他の実施例図、第4図は従来例の一部切欠断面図、第5図は従来例の説明のための一部切欠斜視図であつて、1は中空状パイプ、2は固定脚、3は頭部、4は変形防止材を示すものである。

第1図

〈省略〉

第2図

〈省略〉

第3図

〈省略〉

第4図

〈省略〉

第5図

〈省略〉

〈51〉Int.Cl. E 04 c 3/29 〈52〉日本分類 86(5)O 15 〈19〉日本国特許庁 〈11〉特許出願公告

昭49-29854

特許公報

〈44〉公告 昭和49年(1974)8月8日

発明の数 1

〈54〉合成樹脂被覆金属管

〈21〉特願 昭43-67455

〈22〉出願 昭43(1986)9月17日

〈72〉発明者 山川清

池田市石橋2の10の1

〈71〉出願人 積水樹脂株式会社

大阪布北区絹笠町2

図面の簡単な説明

第1図は本発明合成樹脂被覆金属管に用いられる栓体の一例な示す斜視図、第2図は本発明合成樹脂被覆金属管の一部切欠断面図、第3図、第4図は栓体の他の例が用いられた合成樹脂被覆金属管の一部切欠断面図である。

発明の詳細な脱明

本発明は両端が栓体で密封された合成樹脂被覆金属管に関するものである。

従来標識板用支柱、街灯用支柱等に用いられている金属管は内壁に防錆塗料が塗布され、外壁には塗装や合成樹脂が被覆されているが、このような金属管を支柱等に使用した場合、外壁の塗装や被覆樹脂は剥離しても補修が可能であるが、金属管の内壁防錆塗斜の塗り替えができないため、土中の水分や雨水の浸透により、施工後時間の経過と共に内側から徐々に発靖し、遂には腐蝕のためにこれらの支柱が倒壊するのであるが、例えば木柱が白蟻の喰害な受けたような場合は外観からも判別できて事前に取り替えることもできるが、金属管の内壁の腐蝕は支柱の外観だけでは全然判らないため、倒壊に至るまでに支柱の取り替え等の適切な処置がとれないので、強風時等に突然倒壊して通行人や自動車等を傷つけたり交通の妨げとなる等の欠点がある。

本発明者は従来の金属管の上述の如き欠点を解決すべく鋭意工夫の結果、金属管の両端に熱可塑性樹脂製の栓体な嵌挿し、かつ、該金属管の外壁に栓体と相溶性のある熱可塑性樹脂を被覆し、栓体と被覆樹脂とを融着等により一体化して金属管を密封することにより、金属管内壁の発靖を抑え、金属管の耐用年数を若しく増大させることに成功したのであつてその要旨は金属管の断面外形とほぼ等しい断面形状となされた鍔部を有する熱可塑性樹脂製栓体が金属管の両端に嵌挿され、かつ金属管の外壁および栓体の鍔部の外周壁が栓体と相溶性のある熱可塑性樹脂にて被覆一体化されてなる合成樹脂被覆金属管に存する。

本発明に使用される金属管は鉄、アルミニウム、銅等の金属やこれらの合金等から作製されたものであつてその断面形状は、円形、 円形、四角形、三角形、六角形等の他いかなる異形断面であつてもよいが、全長に亘つて同形となされている。

本発明に使用される栓体ば熱可塑性樹脂にて作製されたものであつて、該熱可塑性樹脂としては例えばポリ塩化ビニル、ポリエチレン、エチレン-醋酸ビニル共重合体、ポリアミド、ポリプロビレン、酪醋酸  素樹脂等の熱可塑性樹脂があげられ、場合によつてば合成ゴムも使用できる。

また栓体は鍔部と嵌挿部とからなり、鍔部はその断面形状が金属管の断面外形とほぼ等しくなされており、嵌挿部はその断面形状が金属管の断面内形と等しくなされている。 、嵌挿部は中空であつてもよいし、中空でなくてもよい。また栓体は金属管の端部に嵌挿する際に円滑に嵌挿でさるように嵌挿部がやや先細りになされていてもよい。さらに栓体の頂部は第2図の如き平面の他、第3図の如き円錐形や第4図の如き半球形等になされていてもよい。さらにまた栓体を金属管の両端に嵌挿する際に接着剤な使用すれば栓体の嵌挿固定がより強固にすることができて好ましい。

熱可塑性樹脂層は熱可塑性樹脂製栓体と相溶性のある樹脂にて作製されたものであつて、金属管の外壁全面に亘つて被覆されると共に、栓体の鍔部の外周壁被覆されて該外周壁と融着もしくは接着一体化されている。

次に本発明を図面に示された実施例について説明する。

図面において1は栓体であり、11は鍔部、12は嵌挿部、13は頂部、2は金属管、3は熱可塑性樹脂層である。

第1図は栓体1の一例を示すものであり、第2図は第1図に示された栓体1が金属管2の両端に嵌挿され、さらに金属管2の外壁および栓体1の鍔部の外周壁に熱可塑性樹脂層3が被覆された状態な示す断面図である。

第3図は他の例の栓体1が金属管2の両端に嵌挿され、金属管2の外壁および栓体1の鍔部11の外周壁に熱可塑性樹脂層3が被覆された状態を示す断面図である。

第4図はさらに他の例の栓体1が金属管2の両端に嵌挿され、金属管2の外壁および栓体1の鍔部11の外周壁に熱可塑性樹脂層3が被覆された状態を示す断面図である。

本発明合成樹脂被覆金属管は上述のごとく金属管の両端が栓体で完全に密封されているので端部からの水分の浸透が防止され、水分が原因となる金属管の内壁の発錆は完全に防止され、標識板用支柱、街灯用支柱をはじめ、海苔や魚介類の養殖用材、パイプ棚、パイプシヤツター等の建材等として好適に使用されて。

次に本発明合成樹脂被覆合成樹脂管の実施例について述べる。

実施例

まず金属管として外径20mm、内径16mmの断面円形の鉄管を用いた。一方栓体として低密度ポリエチレンで作製され、鍔部の断面直径が20mmとなされ、嵌挿部の直径が16mmとなされたものが使用された。さらに熱可塑性樹脂層は栓体と同じ低密度ポリエチレンが使用された。そして金属管の両端に栓体がそれぞれ嵌挿された後、押出熱によつて2mmの厚さで熱可塑性樹脂層が被覆され、被覆時の樹脂の溶融熱でもつて該熱可塑性樹脂層と栓体の鍔部と外周壁とが融着一体化され、合成樹脂被覆金属管となされた。この合成樹脂被覆金属管は50℃に加熱された水中に10ケ月浸漬後、内部を調べたが水分による発錆は認められなかつた。

また比較のため脱脂洗浄後内外両面にアクリル酸系の防錆塗斜にて0.05mmの防錆被膜が設けられた外径20mm、内径16mmの鉄管な上記と同条件の水中に浸漬した処、20日目に早くも斑点状の錆が現われ、50日目にはこの鉄管の内外表面の約60%が錆で覆われた。

〈57〉特許請求の範囲

1 金属管の断面外形とほぼ等しい断面形状となされた鍔部を有する熱可塑性樹脂製栓体が金属管の両端に嵌挿され、金属管の外壁および鍔部の外周壁が栓体と相溶性のある熱可塑性樹脂にて被覆一体化されてなる合成樹脂被覆金属管。

第1図

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第2図

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第3図

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第4図

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実用新案公報

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特許公報

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